中小企業が初めてインナーブランディングを行って感じたこと ③社員座談会/後編「制作フロー」
21.07.09
Point
ギフト株式会社 ブランディングディレクター 片山
1979年、滋賀県に生まれる。高校から美術を専門的に学びアーティスト活動を行う傍ら、PM・ブランディング・経営企画・マーケティング・戦略・企画・Webを中心としたディレクションに携わる。デザイン力・行動力に加え、顧客×経営視点で企業課題を経過改善までサポート。
アドバンド株式会社 ディレクター 石井
1986年生まれ、茨城県出身。体育大学卒という異例の経歴を持つ。アドバンドが社員5名だった2009年、新卒で入社。その後は実力を蓄えて頭角を現し、5年連続で社内のベストパフォーマンス賞を受賞する。学習塾ほか教育機関の広報に関わる支援も得意。
アドバンド株式会社 デザイナー 岡田
1995年、熊本県生まれ。地元九州の大学では、学内のフリーペーパーの企画・編集にもたずさわる。卒業後、一念発起して上京し、2018年に新卒でアドバンド入社。企業が発行する社内報・記念誌の制作を中心に、インナーブランディングチームの副リーダーとしても活動中。
アドバンド株式会社 デザイナー 佐藤
1996年生まれ、東京都出身。大学ではライフデザイン学部に所属してデザインの基礎を学び、このスキルを活かそうと、2019年にアドバンド入社。現在はWebサイト制作など、デジタル分野に注力。今回のブランディングPJでは、最年少ながらメンバーに抜擢される。
パートナーとして支援していただいたギフト株式会社との、二人三脚のプロジェクト。
もちろん、CIが完成するまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。
ここでは、ミッション・バリュー・行動指針ができ上がるまでの流れをふり返るとともに、
社内に啓蒙していくためのアイデアやプロセスについて、議論を深めていきます。
やり抜いた6日間のセッション
片山 今回のPJで、支援会社の我々が最初に行ったのは、全社員への「社員個別面談」です。「アドバンドはどんな会社?」という質問に対して、回答内容や理解度がまちまち……。1人30分ほどのインタビューで感じたのは、みんな会社のことが好きなのに、認識にばらつきがあることでした。
中野社長がPJに参加しないと宣言されたので、ベテランではなく若手を中心にチームを構成すべきだと考えました。3名を選んだ理由として、石井さんは全員とフラットに接している印象があったこと。岡田さんは組織を俯瞰して見るタイプ。佐藤さんは入社2年目と最年少ですが、誰よりも前向きな発言が多かったからです。
岡田 何らかの選抜基準があると思ったので、選ばれたときは「やった!」と(笑)
佐藤 最初、「なんで、ぼくが??」という気持ちでした。不安もありましたが「選抜高校野球の21世紀枠と同じだよ」と言われて(一同笑)
石井 PJメンバー決定後、次のステップが「社長インタビュー」です。表参道にある小さなカフェを貸し切り、創業者の中野が半生をふり返り、メンバー全員で起業前後の出来事を共有しました。
佐藤 休憩をはさんで3時間くらい。でも時間が経つのを忘れるほど、話に聞き入ってしまいました。そして、いよいよ本格的なセッションに突入します。
岡田 想定していた日数を2日オーバーし、合計6日間のセッションでした。大きな流れとしては、ミッション、バリュー、行動指針の順序で策定していきました。
石井 ミッションの決定に2日間を要しました。各々が付箋に思いつくキーワードを書き、壁に貼って意見を出し合いながらグルーピングしていく作業です。「真のお客様は誰か?」「提供している価値は?」「お客様が抱える課題は?」などの質問に回答していきました。
片山 合計6つの質問です。多数意見は思いが共通である証拠なので、さらに掘り下げます。グルーピングにより複数のキーワード群に集約されるので、これを持ち帰って、ミッションの素案を17パターン作成しました。
佐藤 ミッション案をすべて壁に貼り、検討を重ねるのですが、「なぜ、この案に共感するのか?」と理由をふくめて深掘りし、最終的に3案まで絞りました。ここでは議論が沸騰し、かなり悩んだのを覚えています。
石井 ただ、「正しい」「つなぐ」「つくる」というキーワードをベースにする方針は、全員一致でほぼ固まっていました。構成の順序、言葉の優先順位で迷いました。
佐藤 最後まで粘ったのは、最年少のぼくでした。でも、他の先輩方が肯定していても、自分が納得することなく肯定したら、チームにいる意味がありません。絶対に妥協したくはありませんでした。
石井 これは重要なポイントです。佐藤さんが納得できないなら、おそらく同年代の若手も納得できないはず。この場で徹底的に議論し尽くしたほうが、新入社員を迎えるときも十分な準備ができます。
片山 次はバリューの策定です。ここでは、アドバンドさんらしいエピソードを披露してもらいました。その話を聞いた上で、「らしさ」とは何かを議論しました。
石井 私は、手を挙げさえすれば挑戦できる社風ということで、鳥居さんが提案した社内システム刷新PJの話をしました。また、「お客様の満足よりも、エンドユーザーの満足を優先する」という、中野の考え方があります。ある専門学校の入学案内の制作で、中野が担当者と口論になったが譲らず、提案を押し切ったというエピソードがあります。ところが、これが成功し、その専門学校は一度も定員割れをすることなく、人気を継続しています。本来の目的を追求し、しかも妥協しない姿勢は、アドバンド独自のものだと思います。
岡田 ぼくは、クライアントとの連帯感の強さを挙げました。お客様の手間を減らす方法を提案する、担当者といっしょに上司へ提出する企画書を考えるとか。お客様と二人三脚で進めるPJが多いのは、大きな特徴です。
佐藤 企画や制作だけでなく、広告・広報のコンサル領域に関われることです。あるお客様から「採用を強化したい」と、ウェブサイト改訂の相談があったのですが、鳥居さんが「採用の課題はウェブではなく、もっと根本的な問題だ」と指摘したんです。普通の制作会社なら、そのまま仕事として受注したほうが面倒もありません。アドバンドらしいって思いましたね。
片山 エピソードをうかがった後、頭に浮かんだキーワードを挙げてもらい、グルーピングすると8つに集約できました。これらを当社に持ち帰って整理し、さらに5つに絞り込んだんです。そして完成した5つのバリューが、①結束しよう ②丁寧に追求しよう ③大胆に疑おう ④わかりやすく伝えよう ⑤自ら挑戦し学ぼう です。
石井 バリューの数が多過ぎると何を優先すべきか混乱するため、覚えやすい数にもこだわりました。
生みの苦しみを経て理念が完成
片山 ミッションとバリューを説明するボディコピーは、私たちが考えた素案を元に、助川さんがブラッシュアップしてくれました。そして最後が行動指針です。
岡田 5つのバリューに紐づく形で行動指針をグルーピングし、チーム内で調整していきました。気づいたことは、質問力の大切さ。ギフトさんにお願いして良かったのは、脳みそが活性化する質問が上手なことです。
片山 理念づくりは「生みの苦しみ」が大きいほうが愛着もわきやすく、その後の啓蒙においても上手くいくようです。大切なのはメンバーが腹をくくれるかどうか。しんどいこと、もどかしさもありますが、いつかはトンネルを抜ける時がやって来るものです。
石井 たしかに。理念が完成した後、じわじわと感動がこみ上げてきました。ミッションの決定直後は実感がなく、バリュー、行動指針と決まるうちに、ミッションを確信できた感じです。
佐藤 ぼくも「やり切った!」という実感です。その気持ちのまま、いよいよ「社長へのプレゼンテーション」を迎えました。鳥居さんと助川さんがスライドを使って説明した後、だまって聞いていた中野さんがひと言、「うん、いいね。これでいこう!」と。うれしかったですね。
片山 PJを経て、メンバー全員が大きく成長されたと感じます。
佐藤 ぼくは頭の中に表現したいことがあっても、言葉にするのが苦手なタイプ。当初、付箋に書く言葉が浮かばなくて苦労しました。後半になるにつれ、深く考え抜くことの大切さを知りました。
岡田 会社に対する印象、言葉から得るイメージは、人それぞれでまったく異なるのだと改めて実感。そして、質問力やきめ細かなファシリテーションなど、議論の深め方を学びました。
石井 私の気づきは2つあります。1つは、削ること、そぎ落とすことの大切さ。これまでは、できるだけ多くの意見をくみ上げることに力を注いできましたが、理念づくりではむしろ、焦点を絞り込むことが重要だと知りました。もう1つは、発散と収束です。合意形成に向けて、一度は思い切って広げ、そして大胆に集約する。このくり返しの中で、本質が見えてくるというプロセスを学びました。
片山 理念は完成してからがスタートで、社員への啓蒙がカギ。考えていることはありますか?
石井 朝礼などで読み上げるだけでは浸透しません。普段の仕事の中で、「この行動は理念に沿っているか?」「今やろうとしていることは、どの行動指針に当てはまるのか?」など、日常的に登場する機会を増やしたいですね。
佐藤 定例会議や勉強会で、1つのバリューを取り上げて意見を出し合うとか。無理に覚えてもらうのではなく、もっと気楽に取り組んでもらいたいです。
岡田 理念をどう解釈していいかわからない社員に対し、質問箱を用意して、朝礼で回答するのはどうでしょうか。ぼくらは理念浸透の“アンバサダー”として、支援する役目を担いたいですね。
石井 ギフトさんから学んだインナーブランディングの基本に、「知る」「決める」「進む」があります。理念とは、新たに創造するものではなく、もともと存在するもの。だから「知る」ことが基本です。そして、打ち出す言葉を「決める」。その後は「進む」だけだと。理念という「柱」がないために、成長が停滞しているクライアントに対し、今回学んだことを活かして提案したいですね。
組織づくりの根っこ「CI構築」の基本を知る ①企業における「人」の課題を解決する秘策に続きます!